尊敬する兄の誕生日が数日後と迫ったある日。
晋は兄へとメールを送った―
「今週末、時間があればご飯一緒に食べない?」
そして数時間後に帰ってきた返事は…
【夜の散歩は、まるで秘め事】
兄の仕事の終わった時間に議事堂まで迎えに行って、二人で入ったのは小さなレストランだった。
他愛ない会話や日常の話に箸も進む。
終始、和やかな雰囲気で食事が終り、店を後にした二人はゆっくりと歩き出した―
「ご飯、美味しかったね」
「あぁ…でも、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって!本当に兄さんは心配性だね」
「…そりゃ、可愛い弟だからな。心配もするさ」
「ふふ…ありがとう。でも、本当に大丈夫だよ。心配しないで。これでも結構バイトとかしてるし…それに今日ぐらいは…ね?」
「…今日って…?」
「ん。ちょっと早いけど誕生日プレゼントだから。」
「晋…」
自分が言った一言で、驚いている兄を見て晋は苦笑する。
どうやら自分の誕生日を忘れていたようだ―
「もしかして…兄さん自分の誕生日忘れてたんじゃないの?」
「え…」
「やっぱりね…」
「いや…先月までは覚えていたんだけど…」
しどろもどろに答える石川を見て、晋は更に苦笑した。
この『仕事大好き』な兄が相手では、恋人の岩瀬も大変だろう…と。
+ + +
川沿いに伸びる桜並木の中を、二人並んでゆっくりと歩く。
それはとても久々で。
とても優しい気持ちにさせる―
「仕事…忙しい?」
「まぁな。年度の初めだし…新入隊員も入ったところだし…」
「…忙しそうだね…」
「あぁ。でも毎年の事だしな」
「それに、大好きな仕事だもんね?」
「そうだな」
頷いて、綺麗に微笑む兄を見て。晋は心からよかったと思う…
これほど真剣になれる仕事に出会える確率は幾らだろう…と。
そして岩瀬という存在に出会えたことにも―
今までの兄は何処か刹那的で…
決して命を粗末にするわけではないが。
何時か自分たちの目の前から消えてしまうんではないか?という風に思っていた…
だが、岩瀬という恋人に出会え、兄は変わった。
何時も張り詰めていた空気が柔らかくなり―
元々、人目を寄せる人であったが、更に魅力的になったというか…
まぁ、岩瀬さんはそれで困っているかもしれないけれど。
でも、責任の一端は岩瀬さんにもあることだし…
それはそれで、仕方がないと思う。
こんな風に思うと兄は怒るかもしれないが…
でも。
本当に兄は綺麗になったから―
ふいに考え込んで、黙った晋を振り返り。
石川は弟の名前を呼ぶ―
「晋?…どうかしたのか?」
「ううん…なんでもないんだ」
「そうか?」
「なんていうか…兄さんが幸せで僕も嬉しいなって…」
晋の言葉を聞いて、石川が微笑む。そして―
「俺も晋や登が幸せで嬉しいよ」
そう言って、晋へと手を伸ばしコツンと頭をつけた。
「俺の大事な家族だからな…幸せだと嬉しいし。悲しそうだと辛い…」
「そうだね…」
「…晋は緒方君と上手くいってるのか?」
「うん…最初はイロイロあったけど…今は大丈夫だよ」
「そうか…よかった」
晋の頭をクシャリとかき混ぜ、石川はホッとしたように笑う。
そんな兄の心遣いが嬉しくて。
晋も綺麗な微笑を浮かべる―
「そういえば、兄さん…」
「なんだ?」
「兄さんは岩瀬さんの何処が好きになったの?」
「…なっ…突然何を…」
かなり意外な質問だったのだろう…石川は突然の質問に真っ赤になって口ごもる。
だが、晋はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、再度同じ質問を口にした。
「だから、兄さんは岩瀬さんのどんな所が好きになったのかって話」
「なっ…!?
「今日ぐらいいいじゃない…教えてよ」
「そっ…それは…」
「…優しいところ?」
「えっ…と」
「強くて、頼りになるところ?」
「す…晋…!?」
「じゃあ…実は情けないところ…とか?」
「晋!!」
晋は真っ赤になって抗議する石川に笑って。
「実は…全部…とか?」
「…そんなの…決められないよ…」
「えっ…?」
「…一言なんかじゃ言えない…」
「兄さん…?」
「岩瀬の…良い所も悪い所も。…全部…好きだから…」
「兄さん…」
ポツリ、ポツリと質問に答える兄は本当に幸せそうで―
自慢の兄にそんな表情をさせる岩瀬に少しばかり嫉妬してみたり。
そんな自分がおかしくて…
晋は石川に解らないように苦笑した。
そして、石川を迎えに来ていた岩瀬に気付き―
ニッコリと笑って…
「だって。岩瀬さん…よかったね!」
「…えっ!?…岩瀬?」
石川が慌てて振り向くと、岩瀬が立っていて…
そして。
岩瀬の表情は暗くてよく見えなかった―
「悠さん…」
「…帰るぞ…!!」
「兄さん?」
突然、帰ると言い出した石川は、晋への挨拶もそこそこに。
「晋…今日は有り難う。またな」
「え…うん…」
兄の突然の行動に驚いた晋だが…
本当は秘めたままにしておきたかった思いを、思いがけず本人の前で告白することになって、恥ずかしくて仕方がないんだろうと思い。
シャイな兄に苦笑するばかりであった。
「秘め事にするには…表情に表れすぎだよね…兄さん」
ポツリと呟いた晋の声には笑みが滲んでいた。
【言ってやりたい事は山程もあったが取り敢えず言うべき事はひとつだけ】へ続く。
2007.04.15 UP